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▲Roman Mensing/skulptur projekte münster 07▲

2007年6月16日にドイツ北西部の町、Münster(ミュンスター)というところでSkulptur.Projekte(彫刻プロジェクト)がオープニングを迎えます。10年に一度開催されるこのプロジェクト、1977年に始まり今年で4回目を迎えます。今回の会期は2007年6月17日-2007年9月30日にかけてです。

この彫刻プロジェクトでは、招待された作家がMünster市内の公共空間においてそれぞれの作品を発表、展示を行ないます。このプロジェクトを訪れる人は前回の1997年で50万人を超えたそうです。そういった意味ではこのプロジェクト、イタリアで2年に一度行なわれるLa Biennale di Venezia(ヴェネツィア・ビエンナーレ)やドイツで5年に1度行なわれるdocumenta(ドクメンタ)と同じような、現代美術の大型展覧会というカテゴリーでくくることが可能だと思います。

このMünsterの彫刻プロジェクト、その自らを特徴づけているのは「公共」と「芸術」の関係を問うているところにあると思われます。「芸術」が決して美術館という「箱」の中だけのものではないこと、芸術家やその他の特別の人たちだけのものではなく社会と密接な関わりを持っていることをこのプロジェクトでは示したいのです。

その他の大型現代美術展覧会同様、著名な芸術家が招待されているというのも確かですが、その芸術家達がただ単に自分たちの作品をMünster市内のある公共空間に設置して人々に見てもらうだけがこのプロジェクトではありません。招待された芸術家は「In situ(その場)」で制作されることを求められます。つまりMünsterでその彫刻プロジェクトに出品・展示する作品を制作しなければなりません。そしてその際には常に、芸術と公共空間、芸術と都市に住む人々の環境というものの関係が問われなければなりません。

そのために彫刻プロジェクトに招待された芸術家達は、プロジェクトの開催よりも前にMünsterに入る必要があります。自らMünsterに滞在し、そこでMünsterのことをよく学び、そこに住む人々の今日的な問題を知る必要があります。そうしたことを行ないながら、芸術家達は自らの制作する作品の設置場所を自らの意思で選ぶのです。

彫刻が設置される場所としては、Münsterの市内を約4500mの長さでぐるっと取り囲むように走っている、Promenade(プロムナード)より内に設置するのが好ましいとされています。Promenadeは遊歩道として、また自転車道として毎日多くの人々に利用されています。ぐるっと徒歩で一周しても1時間とかそれくらいの距離です。Promenadeより内に設置することによって、訪れた人々が簡単に多くの作品にアクセスすることを前提としているようですね。

この彫刻プロジェクトの元になる構想が起ったのは1973年のことです。当時MünsterのWestfälische Landesmuseum für Kunst und Kulturgeschichte(芸術と文化史のためのヴェストファーレン州立美術館)で働いていたKlaus Bußmann(クラウス・ブスマン)とキュレーターであった Kasper König(カスパー・ケーニヒ)が二人で取り組んだ展覧会がきっかけとなります。ロダンによる近代彫刻から現代彫刻までを一覧できるような展覧会を開催した際に、George Rickey (ジョージ・リッキー)の非具象的な作品の設置を巡って市民に激しく抵抗され議論となります。大聖堂を構え、カトリック信仰が深く根差したMünsterのような「保守的」な街では、当時まだ現代美術はなかなか受入れられなかったのでしょう。そのことが、芸術作品を公共空間へ、という流れへと結びついていくのです。(Henry Moore(ヘンリー・ムーア)の野外彫刻作品の寄贈を巡って芸術と公共についての議論が起ったことがこのプロジェクトのきっかけと言われているのも、恐らくこの辺りのことでしょう。しかしながら私自身は不勉強のため、それが何年の話なのか、またムーアのどの作品なのかよく分かりません。もう少し調べる必要があります。)

このような背景もあって開催されたMünsterの彫刻プロジェクトは、その街の歴史や文化、人々の生活、自然や地理的条件などを全てふまえた上での、芸術と公共性の関係に関する実験の場としての意味合いがあります。

第1回目は1977年7月3日-1977年11月13日まで開催されます。Claes Oldenburg(クレス・オルデンバーグ)、Joseph Beuys(ヨゼフ・ボイス)、Donald Judd(ドナルド・ジャッド)、Ulrich Rückriem(ウルリヒ・リュックリーム)、Michael Asher(ミヒャエル・アッシャー)、Richard Serra(リチャード・セラ)、Carl André(カール・アンドレ)、Richard Long(リチャード・ロング)、Bruce Nauman(ブルース・ナウマン)の9名が参加して行なわれました。当時は反対運動も起るなど、様々な議論が巻き起こったようです。

その後10年経ち第2回目が行なわれ、また10年経ち第3回目が行なわれるに従って、住民の中からもこのプロジェクトに積極的に参加しようという人々が現われるようになりました。その結果がこの彫刻プロジェクトを世界的に名の知られる大型現代美術展覧会へと押し上げ、50万人を超える人々が訪れるプロジェクトになりました。

芸術作品は芸術家から生まれるものであるので、その人個人に由来しているのは間違いありません。しかしながら、個人はまた社会と密接に関係しているのも事実ですから、その作品には個人的な由来の他に、それを制作した芸術家が関わってきた社会との繋がりを見出すこともまた可能です。それは古典といわれる作品でも現代の作品でも変わりはありません。

ただ特に現代美術においてはその難解さも手伝ってか、そのことが見落とされがちです。しかしながら、現代美術こそ現代の社会の環境や問題も含んでいる作品ですから、古典といわれる歴史的な背景をふまえた作品よりも、現代に生きる我々にはより理解しやすいという側面があるのは否定できないと思います。

そういった意味でこのMünsterの彫刻プロジェクトは、現代美術を社会に浸透させるという意味では一定の成果を収めつつあるのだと思います。芸術家が滞在して感じたMünsterという街の歴史や文化、社会、人々の暮らし、そこにある問題などを通じて作品の制作を行なうのですから、そこに住む人々にとってはその作品から得られるもの、感じるものが必ずあるはずです。芸術家は街の人々に自らの作品プランを説明するトークを行ない、それに参加した人々はその作品から得られるものを知り、考えることが可能となります。「芸術」といえば一見世間離れした世界のように思えるかもしれませんが、実はそうではないという事をこのプロジェクトを通じて人々は知り得ることが出来るのです。

10年という開催期間の間もその成功の一部を担っているのではないでしょうか。この彫刻プロジェクトに設置された作品の一部は市が買い取り、パーマネント・コレクションとして今でもMünster市内の各地で目にすることが可能です。そうやって長い期間設置されることによって、よりその芸術作品が社会との関わりを持つようになり、また人々もその作品を通じて芸術と社会との関係について考えを深めることが可能になります。

しかしながら逆に言えばその彫刻プロジェクトの成功は、その彫刻プロジェクトの存続を危うくしているのもまた確かでしょう。20年が経過した前回の第3回目のプロジェクトにおいて、「芸術」と「公共」について考える実験場としてのプロジェクトの当初の目的は、ほぼ成功裏に終わったかのように思われます。これから先、このプロジェクトが単なる「イベント」としてのプロジェクトではなく、当初持ち得ていた「実験」としての性格をどこまで持ち続けられるか、そしてどう発展させていくことが可能かというのが、このプロジェクトを今後続けていく上での課題であるように思われます。

2007年の今回は、Kasper König、Brigitte Franzen(ブリギッテ・フランツェン) 、 Carina Plath(カリーナ・プラス)の3人がキュレーションを担当します。後援者はドイツ連邦共和国大統領Horst Köhler(ホルスト・ケーラー)です。

過去3回、30年の期間にわたって続けられてきたプロジェクトも、今回で何らかの変化が求められると思います。3人のキュレーターが招待した35人の芸術家達と一緒に、このプロジェクトで問いかけたいものは何であるのかが、この夏明らかにされるのでしょう。楽しみです。

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