なごりゆき

昨日THE BLUE HEARTSに関するエントリーを書いて、ふと思い出したことがあります。そして思い出したと同時に気になりました。それは小学校、中学校と同級生だった、I・F君のことです。

I・F君は真面目を絵に描いたような人でした。「実直」という言葉が、そのまま人になったような感じの人でした。

中学生にもなれば、髪を染めてみたり、指定された制服とは異なるものを着用してみたりと、程度の差は有れど、誰でもが背伸びをしていた時期です。しかしI・F君はいつも指定された制服を指定されたようにきっちりと着ていました。もちろん髪を染めたりすることもありません。

おとなしくて、物静かな感じのI・F君は、クラスの人の中心となっているようなことはありません。「いつもひとりぼっち」、「教室の隅でポツン」という極端な感じではないですが、それに近いものはあったように思います。もちろんそれは、I・F君が嫌われていたという訳ではないということは断言しておきます。

勉強が特に出来たわけでもなく、スポーツが万能だったわけでもないI・F君は、ごくごく一般的な生徒だったため、特に目立つこともありませんでした。

I・F君が唯一話題に上ったのは一度だけ。I・F君の家庭は元々片親だったのですが、再婚されて、その相手に子供がいたので弟が出来たのです。それが何と同じ歳であったので、弟と同級生になってしまったのです。田舎の学校だったので、珍しいパターンで、結構話題になりました。

しかしそんななかでも、いつもと同様に淡々と日々を過ごしていたように思います。

私はI・F君とは何度か同じクラスになったことがあり、話をする機会も多々ありました。彼からは積極的に話しかけてくることはないものの、話しかければ気軽に応じてくれるし、冗談も通じる人でした。いつもはにかんだように笑っていたのが印象に残っています。

さて、中学生にもなると、小学生までとは遊び方が異なってきます。その1つにバンド活動があるでしょうか。お気に入りのバンドをコピーしたバンド活動を行なっている同級生が、何組かいました。大抵そういうバンド活動をやっているのは、学年でも外見的に目立った人たちで、所謂モテた人たちでした。

男性のバンドは、TM NETWORKやBOØWYなどをコピーし、女性のバンドは、PRINCESS PRINCESSなどをまねていた時代です。

当然文化祭などではそういったコピー・バンドのコンサートがあり、人気のあるイベントでした。「きゃー」とか「わー」とかいう声が、ハート・マーク付で飛び交っていたのを記憶しています。

確かに格好良いと思いました。私には出来ないことですし。ただ、別に彼女たちや彼等達の演奏を、そう何度も聞きたいとは思いませんでした。所詮はコピーです。オリジナルの持っているものは伝わってきません。オリジナルを聴けばよいと思っていましたね。

さてそんな文化祭の中心となるイベントのコンサートの舞台に、中学3年生の時にI・F君が出場します。その他大勢と一緒に出たわけではありません。一人で舞台の上に立ったのです。なんだか場違いな感じがしましたのを覚えています。

彼はいつもと変わらず、決められた制服をびしっと着こなし、ややはにかんだ笑顔で舞台に登場しました。

そして音楽の先生のピアノ伴奏に合わせてI・F君が歌い始めたのは、イルカさんの「なごり雪」でした。

あまりの唐突さに会場の学生達の間からは、失笑が生まれます。当然といえば当然の反応でしょうか。華やかなコピー・バンドの演奏で、ひとしきり盛り上がった後ですから。

しかし私は彼の歌声に魅入られるように聴きいってしまいました。バスの重厚な声が、会場いっぱいに下から響いてくるようでした。

彼は会場の失笑など気にすることもなく、最後まで歌いきり、そして演奏が終わると、またいつもの彼らしく、はにかんだ笑顔で舞台を降りました。

恐らくこの舞台での演奏は、彼の意志ではなく、演奏をしていた音楽の先生の案によるものだと思います。確かに彼の声は、普段でも低音の良い声でしたから。音楽の先生の耳にとまってもおかしくはありません。

コピー・バンドの人たちが、誰の何という曲をどのように演奏したのか、今、ほとんどといって良いほど思い出せません。しかしI・F君の演奏は、15年以上も前のことなのに、まだ結構覚えています。

そんな演奏を聴かせてくれたI・F君を、私はその時心から「格好いいな」と思いました。コピー・バンドの人たちが見せてくれた演奏も服装も、確かに格好良いといえば格好良いのですが、I・F君の前には、なんだかひどく色褪せた感じに思えました。THE BLUE HEARTSに通じる格好良さを、私はその時I・F君に感じました。

中学校を卒業して以来、I・F君には一度も会ったことがありません。彼はその後、音楽と関わりを持ったのでしょうか。それとも音楽とは全く関係ない生活を送っているのでしょうか。またいつか出会えることがあるならば、I・F君の「なごり雪」をもう一度聴いてみたいものです。

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